名古屋高等裁判所 昭和58年(行コ)3号 判決 1984年2月09日
名古屋市天白区中坪町二一八番地
控訴人
カネ美食品株式会社
右代表者代表取締役
三輪亮治
右訴訟代理人弁護士
中野直輝
名古屋市瑞穂区瑞穂町西藤家一丁目四番地
被控訴人
昭和税務署長
鵜飼利明
右指定代理人
林道春
同
西尾清
同
和田真
同
柴田良平
主文
本控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五二年五月一八日付で控訴人の昭和四九年分法人税についてした更正(ただし租税特別措置法六三条に定める土地の譲渡等に係る譲渡利益額・所得金額三七三万〇四六四円・その税額一〇四万四四〇〇円を超えない部分を除く)及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、次につけ加えるほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。(ただし、原判決添付別紙二(取引一覧表一)の記載のうち、番号8の諸経費取引税欄の「2400」を「2406」に、番号21の買付金額欄の「4,500,000」を「4,500,000」にそれぞれ改め、同番号30の諸経費管理料欄に「2,000」を加える。)
(控訴人の主張)
(一) 準則はあくまで私的取引である株式の信用取引についての権利、義務を明記することにより、証券会社とその顧客との紛争を回避し、円滑な信用取引を確保するためのものであるから、右準則及び信用取引口座設定約諾書をもって納税義務を確定する根拠とすることはできない。
(二) 保証金は、信用取引による損金の精算に充てられるもので、実質的には現物売買における代金に相当するから、保証金を誰が支出したかは、税法における実質課税の原則上取引主体を判定するうえで重大な影響を持つものとみるべきである。そして、本件信用取引の保証金の支払に利用された小切手の控には、いずれも「社長名儀岡地保証金」の記載があり、これを後記昭和四九年八月三日付及び同年九月一三日の現物取引に利用された小切手控に比較すれば、本件信用取引が被合併会社によってなされたものであることは明らかである。もっとも、本件信用取引に利用された小切手控のうち四通については、記載事項の訂正が存するが、これらの訂正は遅くとも同年八月二六日ころまでになされており、その額は保証金総額の半額にも及ばず、また、本件取引の結果の判明していない時期におけるものである。
(三) 被合併会社の経理担当者稲垣昌宏が三輪信昭から保証金は被合併会社の取引に基づくものであるから訂正するよう指示を受けたのは、本件信用取引開始の直後であり、その時点では本件信用取引について納入した保証金は総額の約三分の一に過ぎずまして、本件信用取引による損益については全く見当のつかない時期であったから、右指示の事実は、むしろ被合併会社代表取締役たる三輪信昭が本件信用取引を同会社として行ったことの証左である。
(四) 三輪信昭による昭和四九年八月三日及び同年九月一三日における「味の素」及び「ブラザー工業」の株の売買は、いずれも新株についての現物売買であるうえ、「ブラザー工業」は野村証券においてなされ、取引の形態、規模からしても本件信用取引とは異質の新株発行におけるプレミアムを期待してのものであるから、これらの取引が三輪信昭に対する貸付金によって行われていることをもって、本件信用取引の主体が被合併会社であることを否定する根拠とはなりえない。
(五) 本件信用取引は、被合併会社の行為として行っても三輪信昭、亮治両名にその利益は還元されるものであるし、信用取引の危険性等を考慮するとき両名が個人で取引を行う必要はないから、右取引が被合併会社によって行われたものであることは明らかである。
(被控訴人の主張)
(一) 本件信用取引における保証金支払に用いられた小切手の控七枚には、その摘要欄にそれぞれ「岡地保証金」、「名儀社長」もしくは「社長(専務)名儀」とメモ書きされていたところ、そのうち四枚はのちにこれを抹消した跡があり、被合併会社の金銭の出納は専ら三輪信昭単独で取り仕切り、また、保証金の預り証の宛名及びその精算金の領収証がすべて個人名儀で行なわれていることなどからすれば、本件信用取引は、三輪信昭、亮治両名が個人として被控訴会社から資金を借り受けて行ったものとみるべきである。
(二) 本件信用取引による利益が一旦被合併会社に帰属し、役員賞与、配当等により三輪信昭、亮治両名に還元される場合と、直接右両名に帰属する場合とでは、前者では被合併会社の利益に法人税の租税公課が課せられたうえ、両名の負担する賞与、配当に対しても租税公課が課せられるのに対し、後者では所得税法九条一項一一号の有価証券の譲渡についての非課税規定の適用をみるなど、両者間に著しい差異がある。
(三) 本件信用取引は、三輪信昭、亮治両名が被合併会社に一時的に多額の金融資産が生じたことに着目し、これを利用して個人資産の増加を意図して行ったものであり、たまたま、昭和四九年六月のいわゆるニクソンショックによる株式の暴落で多額の損害を蒙ったため、これを被合併会社に負担せしめることを企図し、本件信用取引の損失が確定した同年一〇月に至り被合併会社の定款の変更登記を行ったうえ、決算期末において保証金の貸付金計上を保証金勘定に振り替えるという経理操作をしたものと、認めるほかはない。(証拠関係)
一 控訴人
甲第一号証、第二号証の一ないし七、第三号証の一ないし一七、第四、第五号証を提出し、原審証人稲垣昌宏、同富田光行、当審証人三輪信昭の各証言及び原審における控訴人代表者尋問の結果を援用し、乙第一ないし第一〇号証の原本の存在・成立及び乙第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証の成立をいずれも認めた。
二 被控訴人
乙第一ないし第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証を提出し、当審証人金田平八郎の証言を援用し、甲第二号証の一ないし七の成立及び甲第五号証の原本の存在・成立をいずれも認め、その余の甲号各証の成立は知らない、と述べた。
理由
一 当裁判所も控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、その理由がないからこれを棄却すべかであると判断する。その理由は次のとおりぬけ加えるほか、原判決説示の理由と同じであるから、これを引用する。
1 原判決二二枚目裏末行中「成立に争いのない乙一、三、一一号証」を、「原本の存在・成立に争いのない乙第一、第三号証、成立に争いのない乙第一一号証」に改める。
2 同二四枚目表七行目の「原告」から八行目「信用し難く、」までを「当審証人三輪信昭及び原審における控訴人代表者の各供述はたやすく信用し難く、」に改める。
3 同二四枚目表九行目の「本件」を「(本件)」に、同行中「処理」を「処理)」に、同末行の「成立から同裏五行目「存しない。」までを、「原本の存在・成立に争いのない乙第六ないし第九号証、成立に争いのない乙第一二号討の一、二、第一三号証、原審証人稲垣昌宏の証言により成立を認める甲第三号証の一ないし一七、原審証人富田光行の証言により成立を認める甲第四号証及び原審証人稲垣昌宏、同富田光行、当審証人金田平八郎、同三輪信昭の各証言、原審における控訴人代表者尋問の結果によると次の事実が認められ、当審証人三輪信昭及び原審における控訴人代表者の各供述中この認定に抵触する部分はにわかに採用し難く、他にこの認定を動かすに足る証拠はない。」に改める。
4 同二四枚目裏六行目の「原告会社」から同七行目の「代表者となっている」までを「本件信用取引のころ控訴人代表者であった三輪信昭が代表者を兼ねている」に改める。
5 同二五枚目裏二行目の「前記」から同五行目の「思い」までを「三輪信昭から受領した現金出納についてのメモ、小切手の控などに基づいて、会計帳簿に数か月分を一括記帳するに際し、右小切手控の摘要欄には「岡地保証金名儀社長、社長借入」(昭和四九年七月一九日振出分)あるいは「社長名儀岡地保証金」(同年八月六日振出分)、「専務名儀、社長貸付、岡地保証金」「社長名儀貸付、岡地保証金」(いずれも同年八月一〇日振出分)などの記入があったので、これらの記載や控訴会社において以前同様の事例もあったところから、右小切手は三輪信昭が個人として行う信用取引の保証金として被合併会社から借り受け、これを岡地証券に交付したものと判断し、」に、八行目の「甲号証中」を「甲第三号証の一一には」に、末行の「そのころ」を「第二回目の帳簿記入後に」に、同二六枚目表三行目の「記帳をした。」を「記帳し、また、同じころ、小切手控の摘要欄の記載のうち「社長借入」、「社長貸付」あるいは「貸付」とある文字が、三輪信昭もしくは稲垣昌宏により二重線で抹消された。」にそれぞれ改める。
6 同二六枚目表一〇行目及び末行の「三〇五〇」を「二七五〇」にそれぞれ改める。
7 同二七枚目裏三行目の「あるが、」の次に「前示のような小切手控の摘要欄の記載等に照らしても、」を加える。
8 同二七枚目裏八行目の「上っていたことは、」と次に「原審証人稲垣昌宏、同富田光行の各証言及び」を加え、同二八枚目表一行目冒頭の「するから、」を「するし、この点に関して、原審証人稲垣昌宏及び当審証人三輪信昭は、いずれも、三輪信昭は稲垣の進言に基づき、同人に対し、昭和四九年八月上旬ないし中旬に被合併会社の定款を変更するように指示した旨供述するけれども、上記のような欠損の具体化に加えて、変更登記の実行が指示のあったとされる時から二か月も遅れてなされたことについて首肯されるような特段の事情も窺えないから、これら供述はただちに信を措き難く、したがって、」に改める。
二 したがって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官裁判長 中田四郎 裁判官 名越昭彦 裁判官 木原幹郎)